東京地方裁判所 昭和44年(借チ)50号 決定
〔主文〕1、別紙目録(一)記載の土地に関する申立人・相手方間の賃貸借契約の使用目的を堅固建物所有に変更する。
2、右賃貸借契約の存続期間の終期を本裁判確定の日から三〇年後とし、賃料を本裁判確定の月の翌月分から3.3平方米当り一ケ月五六〇円に改める。
3、申立人は、相手方に対し、金一二〇〇万円の支払をせよ。
〔理由〕(申立の要旨)
1、申立人は、相手方から、別紙目録(一)記載の土地(以下本件土地という)を非堅固建物所有の目的で賃借中にして、存続期間は昭和六三年九月三〇日まで、賃料は昭和四一年四月以降一ケ月二万一、三七六円である。
2 申立人は、本件土地上に別紙目録(二)記載の建物(以下本件建物という)を所有しており、右建物を鉄筋コンクリート造りの高層建物に改築したいが、使用目的を堅固建物所有に変更することにつき相手方と協議が調わないので、右変更の裁判を求める。
(決定理由)
1 本件の資料によると、申立人は、相手方から、戦前から本件土地を非堅固建物所有の目的で賃借し、同地上に関東大震災直後建築した本件建物を所有していたが、昭和二三年一〇月一日右賃貸借契約を書面上明らかにすることとし、その際存続期間を同日から二〇年としたこと、賃料は、昭和四一年四月分から一ケ月二万一、三七六円に改められ、現在にいたつていることが認められる。
相手方は、昭和四三年九月三〇日借地期間が満了したので、同年一〇月一日到達の書面により、申立人に対し、本件土地の継続使用につき異議を述べ、右異議は、正当事由に基づくものであるので、右賃貸借契約は、期間満了により終了した旨主張する。本件の資料によれば、相手方銀行の東京都内における営業施設は、東京事務所、東京支店および新宿支店であるが東京事務所および東京支店は、他のビルの一部を借りて営業している実情にして右営業施設をもつてしては、地方銀行が東京を重視する傾向、経営の近代化の要請、支店の増設、その他種々の営業上の便益に応えるには不十分にして、本件土地の返還を受けここに高層ビルを建築してこれら諸要請を満たす必要のあることは十分認められるが、他方申立人は、本件土地で酒類販売業(昭和二七年から会社組織)を営んでおり、右営業は、徳川時代から代々本件土地において継承されてきたものにして、老舗として顧客が定着している関係上、他に相応の代替地の提供を受けるならば格別、右代替地の提供がない現在、営業の本拠を他に移すことは、申立人に不測の損害を加えることも十分考えられるので、双方の事情を彼此比較した場合、相手方の述べた前記異議に正当事由がありとして、借地契約を終了せしめるのは相当とはいいがたい。従つて、昭和四三年九月三〇日期間は満了したが、同年一〇月一日から賃貸借契約は法定更新され、残存期間は昭和六三年九月三〇日までということになる。
2 本件の資料によれば、本件土地は借地後防火地域の指定を受け、附近の建物は高層化の傾向にあることが認められるので、本件申立は、これを認容すべきである。
3 附随処分
本件借地契約の使用目的を非堅固建物所有から堅固建物所有に変更することにより、申立人は、本件土地を最有効に使用することが可能となりそのことは、本件借地権の経済的価値(借地権価格)の増加を将来するので、申立人に財産上の給付を命ずるのが相当であり、その額は、従来の裁判例からして、本件土地の更地価格(鑑定委員会の評価に基づき3.3平方米当り一七〇万円とする)の約一二%に当る一、二〇〇万円を相手とする。
鑑定委員会は賃料の改定は必要でないというが本件の資料によれば、現行の賃料は、固定資産税および都市計画税の合計額にも満たないものであることが認められるので堅固建物所有目的に相応しい額に増額すべきである。また相手方提出にかかる財団法人日本不動産研究所作成の鑑定評価書によれば、現行賃料に改定された昭和四一年四月当時の底地価格に対する純賃料(契約賃料から諸経費を控除したもの)の比率を求め、本件土地の現在の底地価格に右比率を乗じたものに年間諸経費を加えた額をもつて年間賃料とすべきであるとするが、地価は、一般の物価と異り、需給の相互関係により価格の自然調整を得ることが極めて困難であり、土地の不増性のゆえに、供給者間の競争は見られず、専ら需要者間の競争にゆだねられる結果、上昇の一途を辿り、その上昇率は、諸物価、所得の上昇率に比して異常に高く、賃料が所得あるいは企業利潤から支出されるものであることを考えると、曾ての底地価格に対する純賃料の比率を基準にして現在の相当賃料を算定するのは安易に過ぎるというべきであり、改定されるべき賃料は、契約当事者の合意に基づく一般の実際支払賃料に比準するのが相当である。東京都内の実際支払賃料の現実は、底地価格を基準とする場合、その0.5%から二%の間に介在するというのが不動産鑑定士の調査結果であることは、当裁判所に顕著であるので、申立人が本件土地を最有効に使用することが可能であることを考慮し、使用目的変更後の本件土地の底地価格(右日本不動産研究所作成の鑑定評価書により更地価格の二割とする)の二%弱に当る3.3平方米当り月額五六〇円に改めるのを相当とする。
借地契約の使用目的を堅固建物所有に変更するので、借地期間を本裁判確定の日から三〇年に変更する。(小山俊彦)
目録
(一) 東京都中央区日本橋室町四丁目五番一〇
宅地 923.86平方米
のうち196.29平方米(五九坪三合八勺)
(二) 右地上所在
家屋番号一五番
木造亜鉛メッキ鋼板瓦交葺二階建店舗
床面積 一階 127.80平方米
二階 79.86平方米
附属建物
木造亜鉛メッキ鋼板葺二階建倉庫
床面積 一階 24.79平方米
二階 24.79平方米